世界の暦
現在、日本を始め世界中で広く使用されている暦は太陽暦の「グレゴリオ暦(新暦)」ですが、世界には独自の暦を持つ国や宗教圏も存在します。
太陽暦(たいようれき)・・・太陽の動きをもとにして作られた暦。1年間を365日(うるう年は366日)と定めている。今回は世界の暦の中から、今もなお人々の生活に根付いている
- イスラム暦(ヒジュラ暦)
- イラン暦(ジャラリー暦)
- ビルマ暦(ミャンマー暦)
という3つの暦をご紹介します。
イスラム暦(ヒジュラ暦)
イスラム暦(ヒジュラ暦とも呼ばれます)は、イスラム教を信仰する国々で古くから大切にされてきた暦です。イスラム暦を使用する国には、サウジアラビアやアラブ首長国連邦、マレーシア、インドネシア、ヨルダン・ハシェミット王国などが挙げられます。こうした国々の多くは、公式的にはグレゴリオ暦を採用しているのですが、イスラム教に関係する行事の日取りや祝日などを決める際にはイスラム暦が利用されています。
季節とのズレが生じる太陰暦
イスラム暦は、月の満ち欠けに従って日にちを数える太陰暦(たいいんれき)で、1年間は354日です。グレゴリオ暦(1年が365日)よりも1年間が11日少ないため、年が経つにつれて日付と実際の季節との間にズレが生じます。「11日のズレ」というと少なく感じますが、年々、日付と季節とのズレは大きくなっていきます。33年経過するとグレゴリオ暦とのズレは約1年です。誕生日をイスラム暦で計算すると、グレゴリオ暦よりも早く年を取るということにもなります。
なお、イスラム暦では、30年間に11回の「うるう年(閏年)」を設けています。うるう年には、年末にあたる12月の日にちが1日増えて、1年間は355日となります。このうるう年は、月の満ち欠けと日付のズレを調整するために作られたものです。
1日の始まりは日没
イスラム暦では、太陽が沈むと同時に1日が始まります。また、1ヶ月は、30日間ある「大の月」と、29日間の「小の月」を交互に繰り返します。奇数の月は大の月、偶数の月は小の月にあたり、1年のスタートは大の月からです。ちなみに、イスラム教の断食の月として知られる「ラマダーン(Ramadan)」はイスラム暦の9月にあたります。
起源は「ムハンマドの移住」
イスラム暦を定めたのは、イスラム教の開祖・予言者「ムハンマド(マホメット)」の後継者である「ウマル(オマル)」です。彼は、ユリウス暦622年の7月15日(7月16日という説もあります)をイスラム暦の元年・元日としました。この日は、ムハンマドが迫害から逃れるために信者たちを連れて、イスラム教の聖地「メッカ(マッカ)」からヤスリブ(メディナ)という土地へ移住(=聖遷)した日です。彼らの移住は、アラビア語で「旅立ち」を意味する「ヒジュラ(hijra)」とも呼ばれるため、イスラム暦には「ヒジュラ暦」という別名もあります。
ローマの政治家「ユリウス・カエサル」が定めた太陽暦。
季節とのズレが少ない暦として長いこと使われていましたが、次第に太陽の動きとのズレが大きくなったため、1582年に現在広く用いられているグレゴリオ暦に改められました。
イラン暦(ジャラリー暦)
イラン暦(ジャラリー暦/ペルシャ暦とも呼ばれます)は、イラン・イスラム共和国やアフガニスタンなどで使用されている暦です。イラン・イスラム共和国ではもともとイスラム暦が用いられていたのですが、1925年からイラン暦が公用暦として正式に採用されました。
4年に一度のうるう年
イラン暦の紀元元年は、イスラム暦と同じくユリウス暦622年です。ただし、イラン暦とイスラム暦には大きな違いがあります。イスラム暦は月の満ち欠けを元にした太陰暦ですが、イラン暦は太陽の運行をもとにした太陽暦なのです。イラン暦における1年は、グレゴリオ暦と同じく365日(うるう年は366日)なので、1年を354日とするイスラム暦とはズレがあります。
イラン暦の1ヶ月の日数は、1月から6月までが31日、7月から11月までが30日と決められています。12月のみ1ヶ月が29日までですが、うるう年には1日増えて30日間となります。イラン暦のうるう年も、グレゴリオ暦と同様におよそ4年に1度程度やってきます。
「春分の日」が1年の始まり
イラン暦における1年の始まり(元日)は3月21日、年によっては3月20日です。この日は春分の日にあたります。太陽が真東から昇り、真西に沈む日です。日本では「自然を称え、生物をいつくしむ祝日」とされていますが、イラン暦では「新しい日」を意味する「ノウルーズ(Noruz)」と呼ばれ、新年の到来が祝われます。
春分の日について、詳しくはこちら 春分の日(春のお彼岸)とは?ビルマ暦(ミャンマー暦)
ビルマ暦(ミャンマー暦とも呼ばれます)は、ミャンマー連邦共和国(ビルマ)で使われている伝統的な暦です。ミャンマー連邦共和国ではグレゴリオ暦も採用されていますが、国民の生年月日の表示や公的な書類などには、グレゴリオ暦のものとビルマ暦のものとが混在しています。
月と太陽の動きを組み合わせた太陰太陽暦
ビルマ暦は太陰太陽暦です。太陰太陽暦とは、月の満ち欠けをベースにして、太陽の運行も組み込んで作られた暦です。月の満ち欠けで月日を割り出すビルマ暦は、グレゴリオ暦よりも1年が11日ほど少なくなります。これでは日付と実際の季節との間にズレが生じてしまうため、ビルマ暦では19年間に7回めぐってくる「うるう月(閏月)」によって、このズレを修正しています。これを「19年7閏法」と呼びます。
通常1年は12ヶ月ですが、うるう月のある年は13ヶ月となります。また、うるう月は30日と定められています。
太陰太陽暦について詳しくはこちら 旧暦とは?太陰太陽暦はどんな暦だったのか1週間が8日?独特な月と曜日の数え方
ビルマ暦では、1ヶ月を前半と後半に分けて考えます。1ヶ月は新月(朔月)の日から始まり、15日前後の満月の日までを「白月(びゃくげつ)」と呼びます。さらに、満月の次の日から月末までは「黒月(こくげつ)」といいます。
なお、ビルマ暦におけるお正月は毎年4月の中旬頃です。
ビルマ暦では、1週間が8日あります。これは、1週間のうち水曜日のみが「午前」と「午後」とに分かれているためです。水曜日の午前で1日、午後で1日と数えるため、1週間が8日になります。ビルマ暦ではこの8つの曜日それぞれに守護動物や支配星、方角などが定められており、生まれた曜日をもとにした性格占いなどにも用いられています。
ビルマ暦における各曜日の守護動物は、以下の通りです。
- 月曜日=トラ
- 火曜日=ライオン
- 水曜日の午前=牙を持つゾウ
- 水曜日の午後=牙を持たないゾウ
- 木曜日=ネズミ
- 金曜日=モグラ
- 土曜日=竜
- 日曜日=鳥
起源は「お釈迦様の入滅」
長い歴史を持つビルマ暦。ビルマ暦の元年は、紀元前544年と伝わっています。この年は、仏教の開祖として知られるお釈迦様(仏陀)が亡くなられた年にあたります。ビルマ暦は、この「お釈迦様の入滅」を記念して作られた暦です。
お釈迦様が亡くなられた年は、紀元前383年だという説もあります。 入滅(にゅうめつ)・・・一切の煩悩から解放され、悟りの境地に達した状態を表す言葉。一般的に、仏陀や徳の高い僧侶が亡くなったことを表現するために使われる。ビルマ暦はお釈迦様の入滅が起源ですが、日本にはお釈迦様の誕生を記念して行われる行事「花まつり(灌仏会)」があります。
お釈迦様や花まつりについて、詳しくはこちら
4月8日の花まつり(灌仏会)とは?