英語の月名の由来は神様や皇帝の名前
「January(1月)」や「February(2月)」といった英語の月の名前は、ローマ・ギリシャ神話に登場する神様や実在した皇帝の名前、月の順番(〇番目の月)が語源となっています。
なぜ、月の名前がローマやギリシャ神話の神々に由来しているのかというと、現在、日本を含め世界で広く使われているグレゴリオ暦(太陽暦)の大元になったものが、紀元前753年の古代ローマで誕生した「ロムルス暦」という暦だったからです。このロムルス暦は、ローマを建国したといわれる伝説上の人物「ロムルス王」が、彼の祖国から持ち込んだものであると伝わっています。
ロムルス暦・・・ローマで初めて生まれた暦。寒く、農作業や戦争に適さない冬の期間(現在の暦の1月、2月頃)を除いた3月から12月頃までの10ヶ月(304日間)だけが記されている。古代ローマの人々は「暦が表す時間や空間を実際に支配しているのは神々だ」と考え、月に神様の名前を付けたといわれています。ロムルス暦、そしてその後に作られたヌマ暦で使われていた月名の影響が、現在の英語の月名にも残っているのです。
ヌマ暦・・・1年の中に暦に数えない日が存在するロムルス暦では何かと不便ということで、新たに作られた暦。1年を355日として、12の月に分けた。ロムルスの後を継いで王となった「ヌマ・ポンピリウス」の手によるものとされる。12の月の中で神様の名前を語源とする月は、1月(January)から6月(June)までです。
英語の月名に宿る神々
January(1月)門神「ヤヌス」
January(1月)の語源は「ヤヌス(Janus)の月」を意味する「Januarius(ヤヌアリウス)」です。ヤヌスとは、ローマ神話に登場する軍神。頭の前後にふたつの顔を持つ神様です。
ヤヌスは「門の神様(門神)」としても崇められていました。古代ローマにおいて、自国と他国との領土を隔てる門は、国を守る上で最も重要なポイントでした。ヤヌスはローマの入り口である門に立ち、ふたつの顔で国の内外を見張りました。そして平和なときには門を固く閉ざし、いざ戦争が始まると勢いよく門を開け放ったといいます。
過去と未来を同時に見ることができるともいわれるヤヌスは「物事の始まりと終わり」や「行動の始まり」の象徴でもありました。このことから、暦の始めにあたる1月の名前に選ばれたと考えられています。
February(2月)浄化の神「フェブルウス」
February(2月)の語源は「フェブルウス(Februus)の月」を意味する「Februarius(フェブルアリウス)」です。フェブルウスは、ローマ神話の浄化や贖罪の神様であり、後に冥界を司るギリシア神話の神「ハデス」とも同一視されました。
古代ローマの毎年2月12日は、フェブルウスを祀る「フェブリアリア(Februalia)」というお祭りが催される日でした。このお祭りは、ローマとその周辺諸国の間で繰り広げられた「サビニ戦争(ザビニ戦争)」の死者を弔い、また、戦争により多くの悲しみを生み出したローマの罪を清めるという目的がありました。このフェブリアリアが開催されることから、2月は「Februarius」と呼ばれるようになったのです。
サビニ戦争が起こった経緯は、次のように伝わっています。
建国当初のローマでは、男性に比べて女性の数が圧倒的に少なく、国の行く末が心配されていました。そこでローマのロムルス王は一計を案じ、近隣に暮らすサビニ族(ザビニ族)から多くの若い女性を略奪することに成功します。誘拐された女性たちには、ローマ人の妻となり、ローマのために子どもを産む道しか残されていませんでした。女性たちを奪われたサビニ族は当然激怒。ローマと敵対する近隣諸国も加わり、女性を奪還しようとローマに幾度も攻め込んだといいます。
March(3月)軍神「マルス」
March(3月)の語源は「マルス(Mars)の月」を意味する「Martius(マルティウス)」です。マルス(マーズ)はローマ神話における戦いの神(軍神)であり、神々の頂点に君臨する最高神でもありました。また伝説上では、ローマを建国したロムルス王の父親とされています。
3月は、マルスが生まれた月であると伝わっています。また、冬の寒さが和らぐ3月は、軍隊を動かして戦いに赴くには最適な季節です。この時期になると軍神マルスが現れ、ローマに勝利をもたらしてくれると信じられていました。
古来よりローマでは、太陽が真東から昇る日(今でいう春分の日)が属する3月を「新年」とする考え方がありました。新たな年が始まる特別な月の名には、ローマ建国の祖の父であり、国を勝利に導いてくれる重要な軍神「マルス」の名がピッタリだったのでしょう。
春分の日について詳しくはこちら 春分の日(春のお彼岸)とは?April(4月)美の女神「アフロディテ」
April(4月)の語源は「アフロディテ(Aphrodite)の月」を意味する「Aprilis(アプリリス)」です。アフロディテ(アフロディーテ)は、ギリシア神話の中に登場する美と愛、そして豊穣を司る女神です。
ローマ神話の「ヴィーナス(ウェヌス)」としても知られるアフロディテは、歩くだけで美しい花を咲かせ、草木を青々と生い茂らせるといわれています。また、Aprilisの語源とされるラテン語の「aperio(アペリオ)」には、「(つぼみが)開く」や「覆いを取る」という意味があります。「Aprilis」はまさに、寒い冬を乗り越えた花々が咲き乱れ、生き物たちが一斉に動き出す生命力にあふれた4月を象徴する呼び名です。
May(5月)農耕の女神「マイア 」
May(5月)の語源は「マイア(Maia)の月」を意味する「Maius(マイウス)」です。ローマに古くから伝わる女神であったマイア(マイヤ)は、豊穣を司る農耕神という役割を持ちます。
マイアは春の訪れと共に、豊かな実りをもたらしてくれます。古代ローマの人々は、毎年5月1日にマイアを祀る「五月祭」を執り行い、作物の豊作や自らの健康を願ったといいます。このマイアのお祭りが開かれる5月が、「Maius」と呼ばれるようになりました。
マイアはローマ固有の女神だったのですが、やがてギリシア神話に登場する同名の女神「マイア」と混同されるようになりました。ギリシア神話のマイアは、巨神族の神「アトラス」のもとに生まれ、後に最高神であるゼウスに嫁いだ神様です。
「Maius(マイアの月)」の語源には、ローマ神話の最高神ユピテル(ギリシア神話のゼウス)を表す「deus maius」とする説もあります。
June(6月)女性の守護神「ユノー」
June(6月)の語源は、「ユノー(Juno)の月」を意味する「Junius(ユニウス)」です。ローマ神話に語られるユノ―(ジュノー)は、女性の結婚や妊娠を守護する女神。ギリシア神話で最高位の女神とされる「ヘラ」と同一視されています。
6月は、ユノーを祀るお祭り「マトローナリア(Matronalia)」が催される月でした。マトローナリアが開かれるようになった経緯には、サビニ戦争(前述を参照)が関係しています。
前述通りサビニ戦争は、ローマが近隣諸国から女性たちを略奪したことを発端として起こった戦いです。幾度も繰り返される争いを止めたのは、他でもない略奪された女性たちでした。故郷の父や兄弟と、ローマ人の夫が互いに殺し合うことに心を痛めていた彼女たちは、激しい戦闘の場に武器も持たずに飛び込みます。そして「このような争いが起こったのは私たちのせいです。武器を向けたいのなら、私たちに向けなさい」「いまや私たちは子どもの母親です。私たちを連れ戻そうとするのは、子どもから母親を奪う行いです」と両軍に語りかけ、戦争を休戦に導いたといいます。
ロムルスは女性たちのこの勇敢な行いを称え、「妻たちの祭り」としてマトローナリアを開催。6月は、女性を称えユノーに感謝するお祭りが行われる月として「Junius」と呼ばれるようになりました。
昔から「6月の花嫁(June Bride)は幸せになれる」と言い伝えられています。これは「6月に結婚する女性は、女神ユノーに守護される」と信じられているためです。
7月以降の月名の由来
神様の話とは離れますが、7月以降の英語の月名の語源は以下の通りです。
英語の月名 | 語源 | 意味・由来 | |
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7月 | July | Julius | 古代ローマの政治家「ユリウス・カエサル(Julius caesar)」の誕生月を記念して |
8月 | August | Augustus | 古代ローマ帝国の初代皇帝「アウグストゥス(Augustus)」の戦勝を記念して |
9月 | September | septem | ラテン語で「7」の意味(7番目の月) |
10月 | October | octo | ラテン語で「8」の意味(8番目の月) |
11月 | November | novem | ラテン語で「9」の意味(9番目の月) |
12月 | December | decem | ラテン語で「10」の意味(10番目の月) |
このように、7月と8月の月名の語源は実在した政治家や皇帝の名前、9月から12月はラテン語の数字が由来となっています。
なぜ「9月」なのに「September(7番目の月)」なの?
上の表を見て「なぜ9月の語源が7番目の月なの?」と不思議に思われた方も多いのではないでしょうか。ここでは、9月から12月までの英語の月名の語源が2ヶ月遅れである理由について解説していきます。
古代ローマで初めて作られた暦「ロムルス暦」は、1年を10ヶ月(304日)として数えていました。寒く、農作業にも戦争にも適していない冬場の約60日間は、暦から省かれたのです。このロムルス暦においては、言葉の本来の意味通り、7月を「September」8月を「October」9月を「November」10月を「December」と呼んでいました。
「ロムルス暦」における月名 | ||
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月 | 月名 | 意味 |
1月 | Martius | マルス(Mars)の月 |
2月 | Aprilis | アフロディテ(Aphrodite)の月 |
3月 | Maius | マイア(Maia)の月 |
4月 | Junius | ユノー(Juno)の月 |
5月 | Quintilis | 5番目の月 |
6月 | Sextilis | 6番目の月 |
7月 | September | 7番目の月 |
8月 | October | 8番目の月 |
9月 | November | 9番目の月 |
10月 | December | 10番目の月 |
紀元前701年、ロムルス暦は「ヌマ暦」という暦に改められます。ヌマ暦では10月(December)の後に11月(Januarius)と12月(Februarius)が付け足され、1年が12ヶ月(355日)となりました。
ロムルス暦と改革以前のヌマ暦では、5月は「Quintilis(ラテン語で「5番目の月」)」6月は「Sextilis(ラテン語で「6番目の月」)」と呼ばれていました。
やがて紀元前153年になると、「ヌマ暦の改革」が行われます。この改革により、それまで11月の月名だった「Januarius」が、1年の始まりの月「1月」の名前へと変更されました。その理由は、前述の通り「Januarius」の名前の由来となった門神ヤヌスが、「行動のはじまり」を象徴する神であったからと考えられています。(前項を参照)
これに伴い、12月だった「Februarius」が2月に、1月だった「Martius」が3月に……といった具合に、月名が2ヶ月ずつズレていったのです。当然、7月から10月の月名も2ヶ月ずつスライドされたため、月の名前と実際の月の順番との間にズレが生まれることになりました。
改革後の「ヌマ暦」の月名 | ||
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月 | 月名 | 意味 |
1月 | Januarius | ヤヌス(Janus)の月 |
2月 | Februarius | フェブルウス(Februus)の月 |
3月 | Martius | マルス(Mars)の月 |
4月 | Aprilis | アフロディテ(Aphrodite)の月 |
5月 | Maius | マイア(Maia)の月 |
6月 | Junius | ユノー(Juno)の月 |
7月 | Quintilis | 5番目の月 |
8月 | Sextilis | 6番目の月 |
9月 | September | 7番目の月 |
10月 | October | 8番目の月 |
11月 | November | 9番目の月 |
12月 | December | 10番目の月 |
ちなみに、紀元前44年に7月の月名「Quintilis」が「Julius(ユーリウス)」に、紀元前8年には8月の「Sextilis」が「Augustus(アウグストゥス)」にそれぞれ変更されて、今日の月の英名(JulyとAugust)の語源となりました。(JuliusとAugustusの名前の由来は前項を参照)