入梅(にゅうばい)とは?
2025年の6月11日は入梅(にゅうばい)です。入梅とは、暦の上で梅雨の時期に入る日を意味します。梅雨入りをすると、その後30日~50日程度、雨の降りやすい日が続きます。
入梅は農家にとっての大切な目安
今のように天気予報のなかった時代、梅雨の時期を把握することは農家の人々にとって極めて重要なことでした。彼らは梅雨の始まりを知ることで、田植えのタイミングを始めとする農作業のさまざまなスケジュールを組み立てたのです。そのため、梅雨入りの時期の大きな目安として「入梅」が生まれたといわれています。
適度な雨は稲の成長を促し、この時期に旬を迎える梅の実をふっくらと大きく育てます。
農家の人々にとって、梅雨時の雨はまさに「恵みの雨」なのです。
入梅の日は太陽の黄経で決まる
入梅は雑節(ざっせつ)のひとつ。江戸時代までは、二十四節気の芒種(ぼうしゅ)の後にやってくる最初の「壬(みずのえ)」の日が入梅と定められていました。しかし、1876年(明治9年)に、「太陽が黄経80度を通過する日が入梅」と定められ、現在に至ります。
現代の入梅の日は新暦(太陽暦)の6月10日、もしくは11日頃になる年が多いです。
雑節・・・中国生まれの二十四節気に加えて、日本独自で作られた暦。日本の気候や暮らしに合わせて作られているため、より日本人の生活に馴染んだ暦となっている。節分や八十八夜なども雑節に含まれる。 二十四節気・・・1年を24の季節に分けた暦であり、古代の中国が発祥。二十四節気のひとつである芒種(ぼうしゅ)は田植えの時期で、新暦の6月6日前後にあたる。 壬・・・中国発祥の「五行」(万物を「木・火・土・金・水」の元素に分けたもの)を、さらに性質によって陽(=兄)と陰(=弟)に分けた十干(じっかん)の内のひとつ。十干は年や日にちを数えるために用いられた。「壬」は「水の兄(え)」で「みずのえ」。 黄経・・・地球上から見た太陽の通り道である「黄道」の経度。芒種の後の最初の壬の日が入梅。対して梅雨の終わり「出梅」は、小暑の後の最初の壬の日でした。
壬は水の性質を持つ十干。梅雨入りと梅雨明けを示す日にはピッタリです。
実際の梅雨入りの時期とはズレがある
暦の上の入梅と、天候上の梅雨入りの時期にはズレがあります。
前述通り暦上の入梅は、太陽の黄経によって決められています。しかし実際の梅雨入りは、梅雨前線の北上とともにやってきます。縦に長い日本では、地域によって梅雨入りの時期はバラバラです。
例年、最も早く梅雨入りをする沖縄地方の平均は5月8日頃。暦上の入梅より1ヶ月以上早い計算になります。一方、東北北部の梅雨入りの平均は6月12日前後。こちらは暦上の入梅の時期とほとんど一致します(ただし実際には、その年ごとに違いがあります)。
北海道と、東京都の小笠原諸島には、梅雨はありません。
この暦上の入梅と実際の梅雨入りの時期とのズレは、昔から問題視されていたようです。江戸時代中期に生きた天文学者の西川如見(にしかわじょけん)も著書の中で、「暦に依存しすぎて、田植えの時期の判断を誤ってはいけない」と、農家の人々へ呼びかけています。
入梅の語源
入梅の語源には諸説ありますが、入梅の頃は、ちょうど梅の実が熟して旬を迎える時期にあたります。雨期に「入る」頃に「梅」が熟すという意味で、「入梅」と呼ばれるようになったという説が有力です。
また、梅雨はジメジメとして食べ物が傷みやすい季節。古来より、梅雨の時期には殺菌作用の強い梅を食べて元気に乗り切る習慣があったため、「梅」の字があてられた、ともいわれています。
ちなみに「梅雨(つゆ/ばいう)」の語源については、もともと雨期は湿度が高く黴(カビ)が生えやすいということから「黴雨(ばいう)」と呼ばれており、それが季節感と美しいイメージのある「梅雨」に転じたという説があります。また、熟した梅の実が潰れることを意味する「潰ゆ(つゆ)」が「梅雨」になったという説も。
梅雨の時期は、栗の花が散る時期と重なることから、入梅や梅雨の季節のことを「墜栗花(ついり)」と呼ぶこともあります。
梅雨にまつわる言葉
梅雨といえば6月というイメージが強いですが、「五月雨」や「五月晴れ」も、実は梅雨にまつわる言葉です。
五月雨
「五月雨(さみだれ/さつきあめ)」は、旧暦5月頃にしとしとと降り続く雨、すなわち梅雨を意味します。旧暦では5月が梅雨の時期にあたることから、このような言葉が生まれました。
「さみだれ」の「さ」は、稲を植え付ける時期「五月・皐月(さつき)」を表し、「みだれ」は「水垂る(みだる)=雨が降る」が語源だといわれています。
五月晴れ
「五月晴れ(さつきばれ)」とは、雨が降り続く梅雨の合間に、ふと太陽がのぞく晴れ間、いわゆる「梅雨の中休み」のことを意味します。
「五月」という言葉から、新緑眩しい爽やかな5月の日本晴れを思い浮かべる方も多いのですが、本来は梅雨時の言葉だったのです。
ただし現在では「五月晴れ」を、「5月の気持ちの良い晴天」を指す言葉として使っても、間違いではなくなってきました。
てるてる坊主の由来
梅雨の時期の風物詩といえば、晴れを祈る手作りの「てるてる坊主」。子供の頃にティッシュペーパーで作って軒下に吊るしたという人も多いのではないでしょうか?
雨の日に晴れを願っててるてる坊主を吊るすという風習は中国から伝来し、江戸時代にはすでに日本人の間でも一般化したといわれています。
てるてる坊主の原型は、「掃晴娘(ツァオチンニャン)」と呼ばれる切り絵や、紙で作られた人形です。手に持った箒で雨雲を掃い(はらい)、晴れを呼び込んでくれるのだとか。掃晴娘は遥か昔、中国の村を大雨が襲った際に、雨を止ませるために龍神に嫁入りしたという伝説上の美女「晴娘(チンニャン)」がモデルになったと伝わっています。
中国からやってきた掃晴娘は、「てるてる法師」や「日和坊主」など、さまざまな呼ばれ方をされながら全国に広がっていきます。やがて大正時代になると、「てるてる坊主 てる坊主 明日天気にしておくれ」と歌う童謡「てるてる坊主」の影響により、「てるてる坊主」という呼び名が定着しました。
ちなみに、てるてる坊主を吊るす時には本来、顔は描きません。
昔の人々は、雨が止み、空が晴れた時に始めててるてる坊主の顔を描き込みました。そしてお神酒を供えて川に流したのです。
脂が乗って美味!「入梅いわし」
入梅の時期に元気なのは梅だけではありません。入梅の頃に獲れるマイワシも、「入梅いわし(梅雨いわし)」と呼ばれ人気を集めています。
入梅の時期はイワシの産卵期にあたります。さらに海中のプランクトンが豊富になり、栄養をタップリと蓄えたイワシが増加。そのため入梅いわしは1年の中で最も脂が乗っており、煮ても焼いてもお刺身にして食べてもおいしいのです。
お財布にやさしいイメージのあるイワシですが、入梅いわしはちょっぴり高価。しかし、口の中でとろけるような食感は格別です。
イワシだけでなく、マアジやハモ、イサキなどといった梅雨の時期においしくなる魚たちを総称して、「梅雨の水を飲む魚」と表現することもあります。