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お事始めとは?事八日やしきたりについて詳しく

土をすくう手

お事始め(おことはじめ)とは

お事始め(おことはじめ)(頭の「お」を取って「事始め」ともいいます)の日には、ふたつの意味があります。ひとつは、お正月にまつわる祭事の準備に取り掛かる日。もうひとつは、1年間の仕事、特に種まきなどの農作業を始める最初の日です。

「お事始め」の「事」は、祭事や行事、農事を表す言葉です。

顔

お事始めをこのどちらの日と考えるかで、日にちが異なります。お事始めを「お正月に行う祭事の準備開始の日」と考えることが多い地域が、西日本と関東地方の一部です。この場合、お事始めは12月8日となります。

お事始め日付の違い解説

一方、お事始めを「1年間の仕事、主に農作業の始まりの日」と考えることの多い地域が、中部地方から東側の日本、特に農村部です。この場合には、お事始めは2月8日となります。

お事始め日付の違い解説

まだ寒い2月8日が「農作業の始まりの日」になったわけ

前述通り、中部から東日本の農村部では、2月8日がお事始めです。このお事始めは主に「農作業の始まりの日」を意味します。2月8日を境に、農家では畑に種をまき始めるなど、1年間の農作業のスタートを切るのです。

しかし現代の2月8日といえば、まだまだ寒さが厳しく、雪の影響も気になる時期です。もちろん作物の種類にもよりますが、農作業を始めるには少し時期が早いようにも思えます。そんな2月8日がなぜ、農作業のお事始めの日になったのかというと、お事始めは旧暦が使われていた時代に考え出されたからです。

旧暦の2月8日といえば、現代の暦(新暦)の3月頃にあたります。現代とは異なり、昔の2月8日前後は、冬の厳しい寒さが和らぎ、農作業を始めるのに適した気候だったのです。

地域独自のお事始めの目安

縦に長い日本列島は、同じ月でも地域によって気候の差が大きいもの。昔から人々はお事始めの日だけに捉われず、独自の農作業の目安を持っていました。

例えば、

  • カッコウが鳴いたら種まき時(北海道)
  • 藤の花が咲いたら稗(ヒエ)をまく(栃木県)

などです。

旧暦について、詳しくはこちら 旧暦とは?太陰太陽暦はどんな暦だったのか

祭事や農事の始まりと終わりの日「事八日(ことようか)」

12月8日と2月8日はワンセットと考えられており、この両日を合わせて「事八日(ことようか)」と呼びます。

事八日は、上で述べた「お事始め」と「お事納め(おことおさめ)」から成り立ちます。12月8日がお事始めの地域では、翌年の2月8日がお事納めとなり、2月8日がお事始めの地域では、同じ年の12月8日がお事納めの日となるのです。

2月8日のお事納めは「お正月にまつわる一連の祭事が終わる日」を、12月8日のお事納めは「1年間の仕事や農作業が終わる日」を意味しています。

比較
お事始め お事納め 基準 主な地域
12月8日 翌2月8日 お正月の祭事 西日本と関東の一部
2月8日 同年12月8日 農作業などの仕事 中部地方から東の地域(主に農村部)
お事納めについて、詳しくはこちら 針供養(お事納め(事八日))とは?

事八日のしきたり

お事汁(おことじる)で健康を祈る

12月8日と2月8日の事八日には「お事汁(おことじる)」をいただくという風習があります。お事汁とは、事八日に飲む味噌汁のこと。1年間を健康に過ごせるように、そして、作物がよく実るようにという願いを込めていただきます。

お事汁の具材には、特に厳密な決まりごとはありません。しかし、栄養豊富な野菜をふんだんに使った、体にやさしい味噌汁を作ることが一般的です。大根とニンジン、ゴボウ、里芋、小豆、こんにゃくというのが、基本的なお事汁の具材だと伝わっています。

仕事は禁止!物忌みの日

事八日の日は、農作業や針仕事などの仕事一切を休み、身を慎む「物忌み(ものいみ)」の日でもありました。この日は「メヒトツ小僧」や「大眼(ダイマナコ/ダイマナグ)」などと呼ばれる一つ目の妖怪が現れる日だと信じられていたのです。

事八日の日にやってくると伝わる妖怪は「一つ目小僧」というのが一般的ですが、福島県では千の目を持つ「マナグセンリョウ」が、神奈川県では「ミカワリ婆さん(メカリ婆さん)」がやってくるなど、地域によっても違いがみられます。

顔

この一つ目の妖怪は、事八日の日に家を一軒一軒訪れては、人々の履物にハンコを押していくと伝わっています。このハンコを押された履物の持ち主は、悪い病気にかかってしまうとされ、恐れられていました。そのため昔の人々は、事八日の日には履物を外に出しっ放しにせず、きちんと片付けたといわれています。

また、関東地方では、長い竿の先にザルをつけて家の前に立てかけておくという方法がとられました。目がひとつだけの一つ目小僧は、たくさんの目があるザルを怖がって、寄り付かなくなるのだそうです。さらに、柊(ヒイラギ)やいぶした唐辛子を使った撃退法もありました。柊のトゲや唐辛子のツンとした匂いで、妖怪を遠ざけようとしたのでしょう。

なぜ事八日に妖怪がやってくるといわれ、物忌みの日になったのかについては、はっきりしたことはわかっていません。しかし、農作業が本格的に始まる前に、体をしっかりと休めておくという目的があったものと考えられています。また、事八日はお正月前後の時期にあたるため、「お正月だからといって浮き足立っていないで、気持ちを引き締めなさい」という教えが込められているともいわれています。

なお、針仕事を休む事八日の風習には、使い込んで錆びたり折れたりした針を豆腐やこんにゃくに刺して労い、神社に納める「針供養(はりくよう)」も挙げられます。

針供養について、詳しくはこちら 針供養(お事納め(事八日))とは?
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